一度取引が成立してしまえば、その売買経路は追跡撹乱のために複雑化されており、行方を追うのは至難の技だ。

中には運良く助けられた例もあるが、その数は極めて少ない。

春雷側に残された手段は、これ以上人身売買の市場が活性化しないよう規制の厳重化を働き掛けること。

それから数少なくなってしまった純血の風使いたちを、引き続き保護することだけ。

売られてしまった人々は、まだ幼い愛梨には想像もつかないような世界に連れて行かれたのだろう。

「…架々見が関与してたことも、折角悠梨や愛ちゃんが協力してくれたのに結局うやむやにされちまったしな」

架々見は人狩りに荷担したことを追及されると、愛梨の集落を襲った集団を自ら捕縛し春雷側に引き渡すことで、身の潔白を主張した。

実行犯たちは全員、命を断たれた状態での引き渡しであった。

「…いいんです、もう。周さんもあんな人には余り関わらないで。周さんに何かあったら、わたし…」

命の恩人である周が、少しでも元気がないとこんなにも心配なのに。

故郷の仇であるあの架々見が、もしも周に危害を及ぼすなんてことがあったら――

きっと耐えられない。

「大丈夫、俺はあんな奴に負けたりしないよ」

思わず泣き出してしまいそうになると、周は苦笑しながら愛梨の頭をやんわりと撫でた。

「……愛ちゃんや悠梨のことは、俺が守るからな」

「周さん…」

周の決意したような眼差しを注がれ、愛梨は少し照れ臭くなって俯いた。

「――あ!周様、やっぱり此処にいた!!」