ただ、周が生まれた当時厘の周囲が、父親が不明であることに納得せず一悶着あったらしい。

まあ当然と言えば当然だろう――

結局は議論の末に“厘から生まれた子であることには違いない”という理由で、周は跡継ぎとして受け入れられたのだ。

「俺は領主だとか、向いてないと思うんだけどなあ」

周が口を尖らせて小さく漏らすと、陽司は赤金色の髪を振り乱して大きく首を振った。

「何を仰いますか!周様は厘様のたった一人の御子息ですよ?貴方様以外に誰が跡目を継がれるというのですか?!」

「継ぎたい奴に継がせればいいじゃないか。母上の部下たちなんか、よっぽど俺より意欲的だと思うぜ?」

「駄目です!春雷の領主は代々直系の血筋による世襲なんですから」

「いつまでも古臭い決めごとに囚われてると、無能な世継ぎのせいで国が傾くかも知れないだろ?ほら、うちの家系は昔から型破りな訳だし」

「だからそうならないように、厘様は修練や勉学に励む時間を貴方様に設けられてるんです!子供みたいな屁理屈言わないでください、ご自身をお幾つだとお思いですか!!」

「十四だけど」

「存じ上げてます!十五年近く生きればもう立派な大人の仲間入りなんですから、もっと次期領主としての自覚を持って頂かないと」

矢継ぎ早にお小言を言い続ける陽司にうんざりしながら、周は深い溜め息をついた。

「実際、お前の方が良い領主になりそうだよ」

「俺は周様が、立派に厘様の跡を継がれるのを見たいだけです」

「…あっそう」

期待してくれるのは有難いが、その期待に応えられる自信は余りない。

これはもう話題を逸らしたほうが得策らしい。