いとしいあなたに幸福を

「そして厘様は、周様が声を掛けていた子供たちを纏めて邸に引き取られたんだ。周様直属の部下たちの半数は、同じような境遇の子供たちだよ」

「そう…だったんですか」

「周様は不思議な方でね、一緒にいるととても穏やかな気持ちになれる。あの方のことが人として、とても好きになる。だから俺たちはみんな、周様を信じて、支えてあげたいと思うんだ」

だから、周が全てを放棄し掛けたときも彼の部下たちは誰一人逃げ出さなかったのか。

「…だけどあの方、周りに気遣うのは得意な癖に特定の誰かを愛すことはとても下手なんだ。きっと一番愛して欲しかった厘様から、愛されていないと長年思っていたからかもね」

「でも、今は京くんがいますし…いいお父様になれていると思いますよ」

「そうかな?俺はそうは思わないよ」

陽司は、皮肉げな口調で笑って見せた。

「本当に京様のことを考えるなら、いつまでも君に頼らずに再婚相手を探すべきなんだよ」

「でも、それは……都様のことをまだ想われているからじゃ…」

「…違うよ。確かに周様は都様を愛していらしたけど…再婚出来ないのはそのせいじゃない。それを理由にしていたら、都様や京様が可哀想だ」

「じゃあ、どうして…?」

陽司はこちらの問い掛けには答えず、愛梨がまだ幼かった頃のように頭を撫でてきた。

「愛ちゃんだって…いつまでも京様に母親と勘違いされてたら困るだろ?」

「わたしは…」

「君のお陰で、京様に取り入って領主夫人の座を狙うような女性が現れないのは助かるけどね…いつまでも半端なままでいたら、一番損をするのは君だ」

今の状況を損だなんて、感じたこともなかった。

寧ろ京が慕ってくれるのを理由にして周の傍に居続けることを、誰かに咎められやしないかと思っていた。