いとしいあなたに幸福を

「…でも、父さまもあいちゃんのことがすきなんだよ?」

「それも承知していますよ」

「え…」

「なのに貴方のお父様は、ご自分の気持ちに素直になれないんです。だから周様がそうやって燻ってる間に、俺が彼女を貰います」

陽司の辛辣な言葉が、胸を切り付ける。

だけど何も言えなかった。

京は困り果てて、周と陽司の顔を交互に見比べた。

「……俺に止める権利はない。好きにしろよ、陽司」

俯いたまま低く告げると、陽司はくすりと笑みを零した。

「本当に構わないんですね、周様。後から止めろと命じられても、こればかりは俺も従えませんよ?今ならまだ、踏み留まれるかも知れませんけど」

「…ああ」

念を押すように問われて、小さく首を縦に振って見せると、陽司は黙って部屋から出て行った。

「父さま…!」

京の悲しげな声に呼ばれて顔を上げると、今にも泣き出しそうな空色の双眸と視線がかち合う。

「どうしてだめっていわないの…?ようじくん、いっちゃったよ?」

「…京、これで解っただろう?愛ちゃんはお前の母様にはなれないんだ。それでもお前がどうしても弟が欲しいんなら、お前の母様になってくれる人を探してもいいよ」

まだ年若い愛梨ではなく既婚歴のある未亡人などであれば、まだ再婚相手として考える気にもなれる。

こんなにも母親や兄弟を欲しがるなら、それくらい考えてやらなくては流石に可哀想だ。