いとしいあなたに幸福を

少しきつい口調でそう告げると、京は悲しげに俯いた。

「…あいちゃんは、ぼくの母さまだよ」

それでも弱々しくそう口にする息子の髪を、優しく宥めるように撫でてやる。

「京、違うよ。愛ちゃんはお前の母様から、代わりを頼まれただけなんだ」

「…父さまは、あいちゃんがきらいなの?」

京からの問いに、周は渋い顔付きで首を振った。

「愛ちゃんのことは好きだよ、でも…」

「父さまと母さまがなかよしだと、赤ちゃんができるんでしょ?父さまはあいちゃんがすきで、あいちゃんも父さまがすきなんでしょ?どうして赤ちゃんができないの?」

(んなこと何処で覚えてきたんだよ…これも悠梨の入れ知恵か?)

「相手を好きって思う気持ちには色んな種類があるんだ。京にも、いつか解るようになるよ」

「…わかんない。どうして父さま、うそつくの?」

「嘘…?」

「…父さま、きのうようじくんがあいちゃんとおはなしてるとき、おこってたでしょ」

怒ってた?違う、あれは――

「あれは、怒ってた訳じゃなくて…」

――嫉妬だ。

ただ単に陽司は愛梨と雑談をしていただけなのに、偶然それを目の当たりにした自分が勝手に苛立っていただけだ。

愛梨の傍にいた京は、その自分の姿を見ていたのだろう。