いとしいあなたに幸福を

「周様――!!」

屋外から響いてきた叫び声を皮切りに、この家屋の周囲に多数の霊媒師の気配が現れる。

「陽司!」

それは陽司を始めとする周付きの部下たちのものだ。

どうやら事態を察知して、駆け付けてきてくれたらしい。

「ちっ、増援か…厄介だな」

架々見が小さく舌打ちをしながら笑顔を打ち消すと、ざわり、とその姿が俄に黒い影に覆われた。

転移魔法を使うつもりか――

「今日のところは退くとしよう。だが覚えていろ、若造共…私に歯向かったこと、必ず後悔させてやる…!」

「待…!」

「周!!」

周は咄嗟に架々見を追おうとしたが、悠梨がその腕を掴んで周を引き留めた。

「!」

不可解げに振り返った周に対し、悠梨は俯きがちに首を横に振る。

――その遣り取りの間に、架々見の姿は闇に溶けて完全に消え失せてしまった。

「いいのかよ、悠梨…」

「…お前が先に奴をぶん殴っちまったから、気が削がれたんだ」

少し呆れたような口調でそう言いながら、悠梨はぱしんと周の肩を叩いた。