いとしいあなたに幸福を

「い、や…っ!」

男に引き摺られるように奥の部屋へと入ると、其処には床に倒れている悠梨の姿があった。

「お兄ちゃん!!」

大した外傷はなさそうだが、ぐったりとして目を覚ます気配が見られない。

咄嗟に男の手を降り解こうと腕に力を込めたが、全くびくともしなかった。

「邸仕えの純血兄妹は、揃って美人だと評判だよ。知らなかったのかい?」

「それより、兄に何をしたんです…!」

「何、君を誘い出すのに協力してくれそうになかったのでね…少し薬を打っただけさ」

「…?!わたしに、何の用ですか…」

「君に用があるのは俺じゃない。この方だ」

すると、突如として悠梨の傍らに真っ黒な闇が現れる。

そして、闇の中からゆらりと姿を現したのは、見覚えのある暗茶髪の男だった。

「久し振りだな、愛梨」

「…!!貴方、は……っ」

架々見――!!

この顔を忘れる筈がない。

両親や集落のみんなを襲わせた人物。

一夜にして、悠梨と愛梨の日常を奪った張本人。