いとしいあなたに幸福を

「え……きゃあっ!」

愛梨の不安をよそに、男は強引に愛梨の腕を掴んで室内に引き込むと、勢い良く扉を閉めた。

「愛ちゃん!?」

屋外に取り残された美花が外から扉を開けようと試みるも、男は素早く鍵を掛けてしまった。

「美花さん!」

愛梨が扉の鍵を開けようと空いているほうの手を伸ばした瞬間、男に掴まれたままの腕を強く引かれた。

「痛っ…」

「ちょっと!開けなさい!!その子に何をするつもり!?」

「おじさんは君に逃げられたら困るんだよ、愛梨ちゃん」

男がにやにやと笑う。

「!どうして、わたしの名前をっ…」

「外の女は邪魔だな、外の仲間に始末させるか」

男は愛梨の問いには答えず、扉に視線を注いだまま低く呟いた。

「!!美花さん、早く逃げてっ!!」

「愛ちゃん…?!えっ…何よあんたたちっ…きゃあああっ!!」

「美花さん!?美花さんっ!!」

美花の悲鳴を最後に、扉の向こうからは何も聞こえなくなった。

「何、殺しはしないさ。ただ邸に報告されると厄介だからな…さあ、兄さんに逢いに来たんだろう?おいで、こっちだ」