いとしいあなたに幸福を

驚いて名を呟くと、周は戸惑いがちに視線を泳がせた。

「周様、それは…?!」

美花の言葉に、ふと周の手元から立ち上る細い煙に気が付く。

「ああ、見付かっちまったか…悠梨にしかまだ知られてなかったのに」

周は苦笑しながら、手にした煙草を手持ちの灰皿で揉み消した。

「邸の中では吸えないだろ?京がいるからな…二人も、臭いが残るから俺にあんまり近寄らないほうがいいよ」

「周さん、それって…」

まさか最近、良く抜け出していたのはこのためだったのか。

煙草を嗜むようになったのは、つらい気持ちを紛らせるためか。

「それより、こんな時間に女二人だけで何処に行くんだ?」

「あ…」

愛梨は美花と顔を見合わせた。

周を探しに行った悠梨が怪我をしただなんて話をしたら、きっと周が気に病んでしまう。

今の周に余り気苦労を掛けたくはなかった。

「ちょっと、昼間の買い出しのときに買い忘れがあったらしくて…ちょうど手が空いてた私たちがそのお使いに」

美花が咄嗟にそう説明すると、周は特に疑う様子もなく頷いた。

「ふうん…何なら俺も一緒に行こうか」

「だっ、大丈夫です、すぐに済みますからっ」