いとしいあなたに幸福を

愛梨は慌てて首を振った。

「大丈夫です、なるべく明るい道を使いますから…それで、どなたのお宅まで行けばいいんですか?」

「えっと…商店街の南通りによく使ってるお花屋さんがあるでしょ?その隣の家なんだけど」

「あ…その場所なら解ります。じゃあ急いで行ってくるので、すみませんが咲良さんにすぐ戻るって伝えて貰えますか?」

「ええ、分かったわ」

「愛ちゃん、やっぱり私も一緒に行くわ。悠梨くんを行かせたのは私だし、愛ちゃん一人で怪我した悠梨くんを連れて帰ってくるのは無理よ」

美花は申し訳なさそうに首を振って、愛梨の傍に一歩進み出た。

「…!すみません、美花さん」

「いいのよ、私の責任もあるんだから。行きましょ」

愛梨は電話を受けてくれた使用人に小さく会釈すると、美花と共に急いで邸を出た。



――夕飯どきを過ぎた街には、人影も疎(まば)らだった。

以前は昼夜を問わず多くの人で賑わっていた筈だが、これ程までに様変わりしてしまったとは。

話には聞いていたが、最近京に付きっきりだった愛梨はこの現状に驚きを隠せなかった。

しかし、倒れて迎えが要るくらいの怪我だなんて兄に何があったのだろう、大したことがなければ良いが――

「…愛ちゃん、か?」

ふと声を掛けられ振り向くと、道端に立つ金髪の青年が不思議そうにこちらを見つめていた。

「…周さん?」