いとしいあなたに幸福を

そして、無様に倒れ伏した男の背を勢い良く踏み付けた。

「言えよ…!他にも仲間がいるのか?それとも誰かに金でも積まれて頼まれたか?」

「く…くそぉっ…」

「答えろっ…!!何なら今すぐ楽にしてやってもいいんだぜ!?」

踏み付けている足に力を込めると、男は大慌てで声を張り上げた。

「やっ…止めろっ!言う言う、だから勘弁してくれ!」

「だったら、…?!」

しかし次の瞬間、男は隠し持っていた小さな笛を思い切り吹き鳴らした。

甲高い鳥の鳴き声のような笛の音が、春雷の夜空に谺(こだま)する。

「なっ…」

その音色を聞き付けた男の仲間らしき人間が、続々と周囲に集まって来た。

それらの数は予想以上に多く、少なく見積もっても十数人はいる。

「小僧が…!これで逃げられないぞ…!!」

中年男が足元で勝ち誇ったように叫ぶのを聞いて、悠梨は呆れたように首を振った。

「小僧相手に、この数はねーよ」

人攫いの集団は、目深に頭巾を被っていて人相の区別が付かない。

しかも皆、一様に黒い外套を羽織っており、闇夜に紛れる彼らの姿は非常に捉え難かった。

これは周の心配をしている場合ではなさそうだ。