いとしいあなたに幸福を

「二、三年前に風使いを狙った人攫いが流行ったろう?また最近、出てきたみたいでね」

ざわり、と血の気が引いた。

二年前に故郷を襲った人攫い――あの愚かしい行為を繰り返す輩が、現れたのか。

確かに、治安の悪くなった今の春雷は格好の狙いどきなのかもしれない。

まさかまた、架々見が絡んでいるのだろうか。

「しかも純血は殆どいないから、最近は混血の人間も狙われてるんだ」

「混血まで…」

「純血程ではないにしろ、やはり高い値が付くらしくてね。だから夜になると住民はあまり出歩かないんだ」

純血はともかく、街には銀髪で碧眼や金眼、眼だけが緋色や薄紅色という人間はまだまだ多い。

夜の街に人気が少なくなったのもそのせいか。

更に言えば、緋色の眼を持つ周もその条件に当て嵌まる。

「ましてや君は、今や希少な純血だろう?売り飛ばしたらどれだけ儲かるかな…!!」

「!」

話を終えるか否かの瞬間に、男が突如襲い掛かってきた。

目先の金に目が眩んだか、住民を装った売人か。

どちらにしても人身売買の行為を憎む悠梨に、容赦してやる気は毛頭なかった。

悠梨は掴み掛かろうとしてきた男から身を躱すと、掌から放った風で相手の足元を薙ぎ払う。

「ぐわっ!!」