いとしいあなたに幸福を

「私…と…あなたの、大切な…こども……まもって…みせる、から…」

「都っ…!!」

握っていた手がするりと解(ほど)けて、都は医師と共に手術室への扉の向こうへ消えた。

残された周は、そのまま茫然と立ち尽くす。

思考を巡るのは、後悔ばかりだった。

やはり、何があっても都の傍から離れるべきではなかったのだ。

泊まり掛けでの仕事の話が出たときから、薄々嫌な予感がしていたのに。

自分の予感がそういうときばかり的中してしまうのは、鈴代兄妹の集落が襲われたときにも感じていた筈だ。

「くそ…っ」

今更悔やんでも、今の自分には何も出来なくて歯痒い。

「――周様!」

背後から駆け寄ってきた声にも、周は振り返らなかった。

「…美月か」

「若奥様のご容態は…」

「芳しくない。今から分娩手術に入るところだ。母にもそう伝えておけ」

「はい……こうなると、せめてお世継ぎの命だけでも助かれば良いのですが…」

美月にしては珍しく迂闊なことを口走ったと思った。

「…美月、言葉に気を付けろよ。今の俺はお前でも容赦しないぞ」