いとしいあなたに幸福を

そう強く念じると、轟音と共に激しい旋風が周囲に巻き上がった。

風は近くにあるものを揺り動かし巻き込みながら唸ったが、腕の中の都と寄り添う愛梨だけは髪の毛一筋程も揺れていない。

都も、悠梨の風の影響を受けている様子は見られない。

そして旋風は悠梨と愛梨と都を、邸から悠梨の願った場所へと運び出した。

――転移した先は、病院の玄関口である石畳の上だった。

「おお、君たちが都様を連れて来てくれたのか!」

邸でも何度か見掛けた覚えのある都の主治医が、数名の看護師と共に駆け寄ってくる。

「さ、都様をこちらへ!低酸素状態が長引くとお腹の子への影響が心配だ…!」

「!」

医師の言葉に、愛梨がびくんと戦いた。

看護師たちが運んできた担送車に都を乗せると、相変わらず苦しげな都は直ぐ様院内へと搬送された。

「先生、都様と赤ちゃんを助けて!!」

必死で哀願する愛梨に、医師は優しく微笑んだ。

「君たちが頑張ってくれたからね、今度は私たちが頑張る番だな」

そう告げて愛梨の頭を撫でると、医師は病院内へと急ぎ足で戻っていった。

「っお兄ちゃん…!」

すると愛梨は悠梨の腕に縋り付いてきた。

周の子が生まれると判ったあのとき以来、涙を見せなかった妹が、ぽろぽろと大粒の涙を溢れさせる。