「都様の付き添いをしていた子が少し目を離してしまって…その間に都様が発作を起こされたのに気付くのが遅れたの!」

普段なら周が傍にいて、発作が起きても酷くなる前に気付けていたのに。

周の不安が的中してしまった。

「悠梨くん、お願い…!病院に連絡を入れたんだけど、向こうも今搬送出来るだけの人手が足りないらしくて…っ都様を病院まで連れて行って欲しいの!」

「はっ…はい……でも…」

今、邸で動ける使用人の中で一番力があるのは悠梨だ。

だが、それでもかなりお腹の大きくなった、それも肺病の発作を起こしている都を病院まで運んで行ける自信はない。

「お兄ちゃん…風の力、使おう」

「な…」

愛梨は戸惑う悠梨の表情をじっと見つめると、懇願するように目を細めた。

「都様のことを一番早く病院まで連れて行ける方法、それしかないもの」

「でも…あれは移動するときに周囲の空気がかなり乱れるんだぞ…普通でもかなり息苦しいのに、都さんの肺には更に負担をかけちまう」

「…大丈夫。わたしが守るから」

「愛梨」

愛梨は風の能力者ながら、その力を発揮する機会は今まで殆どなかった。

両親から受け継いだ才覚自体は、ともすれば悠梨より強いかも知れない。

だが、容易に他者を傷付けられる能力を愛梨は好まず、余り進んで使おうとはしなかった。

「お兄ちゃんお願い、都様と赤ちゃんを助けたいの!!」