「お兄ちゃん」

中庭でぼんやりと佇んでいた悠梨は、ふと背後から呼び掛けられて慌てて立ち上がった。

「…愛梨」

「どうして周さんに、私のところに来るように頼んだの?」

愛梨は怒っているのかそうではないのか、良く解らない口調で悠梨に訊ねた。

悠梨はばつが悪くて必死で言い訳を探したが、妥当な言葉は咄嗟に浮かばなかった。

「お前が…笑ってくれるかと思って」

「……あのお菓子、お兄ちゃんが買ってきてくれたの?」

「…ん」

思い返すと余計に恥ずかしくなってきたが、悠梨は観念して素直に頷いた。

愛梨は返答を聞くまで首を傾げていたが、悠梨の言葉を受けてふわりと微笑んだ。

「ありがとう、お兄ちゃん」

不意に愛梨の華奢な手に、両手をやんわり捕らわれる。

「でもね、わたし一人じゃあんなに沢山のお菓子、全部食べ切れないの。だから一緒に食べてくれる?」

「…いいのか?」

「お兄ちゃんが、わたしのためにしてくれたことだって解ってるよ。でも周さんが悪いんじゃないんだから…もうあんなこと、しないでね?」

「……悪かった」

「周さんにも、謝った?」