人知れず、夜泣き。

 
 「全然めでたくないし。 振られての引越しがめでたいわけがない。 それにワタシはただの同僚なのに、こんなに高価なものを買ってもらうわけにいかない」

 木内が無理矢理オレのシャツのポケットにお金をねじ込んだ。

 確かにオレが選んだ食器セットは、有名ブランドのものではないが、それなりに高価なものだった。

 そんな食器セットの入った袋を覗き込んだ木内は、

 「100均でいいって言ったのに。 でも、やっぱりセンス良いね、橘くん。 形も模様もオシャレだね、この食器」

 と笑った。

 オレは木内のこういう律儀さが嫌いではない。 貧乏臭いな、とは思うけど。

 だから、やっぱり木内のお金は受け取れない。

 だって、オレが勝手に買ったものだし。

 木内にプレゼントしたくて買ったのだから。