「あれ?君朝すれ違ったよね?」
まさかの相手からの言葉に驚きを隠せなかった。
「あたしのこと、覚えてるんですか?」
こんなこと、運命以外のどんな言葉で表せるのだろうか。
「んー、スッゴい必死に走ってたよね」
ははっと笑いながら答える。
そして集めた資料をさっと取られ
「女の子はこんなの持っちゃダメだよ、
うちに持って来たんでしょ?預かるから」
さりげない優しさ、偶然会ったことを覚えてくれてる。
プラスしてかなりのイケメン。
あたしは、その瞬間彼に惚れたのだ。

「失礼しました」と一礼し、
自分の部署に戻っていると後ろからパタパタ
駆け足が聞こえてくる。
「えーっと、何ちゃん?俺、拓っていうんだけど」
振り返るとさっきの彼が後ろにいた。
「えっと…、美咲って言います…」
「美咲ちゃんかぁ…。可愛いね」
へらっと笑いながら拓が話す。
「これ、俺の名刺。アドレスも載ってるから
美咲ちゃんメールしてねっ。ご飯でもいこ」
手に彼の名前が載ってる名刺を握らされ
じゃぁ、また。そう言って彼は戻って行く。

あたしは今自分に起きたことを
上手く整理出来ずに、必死で理解しようと
しながら部署に戻る。
「おかえりー。あれ?顔赤いよ?」
コーヒーを片手に上司が笑う。
「イケメンでもいたのかぁ~?」
なーんて、××課は地味が多いしな~と
ブツブツ言う上司の横を通り過ぎ
自分のデスクに座り、
貰った名刺を一番に目に付くところに
置いたのだった。