ハロウィンなんて、小学生の学童保育で一度やったきりだ。
もうこの年になったら縁はないものだと思っていた。
しかし、ハルのきらきらした目を見ていたら、今ぐらいは童心に戻ってもいいような気がした。

「ま、いいや。はいトリックオアトリート」
「え、俺からじゃないの?」
「先手必勝です」

ほら、と手を出すと彼はやれやれ、といった感じに、チョコレートを私の手に握らせた。
そしてチョコレートを握った私の手を、大きな手のひらがそっと包み込む。

学校に来るまでに冷たい風にさらされた手には、彼の少し高めの体温が心地よい。

「あ…ったかい」

ありがとう、と言おうとした口が、つい手の感触についての感想を紡いでしまった。
きょとんとするハルを見て、自分の発言にはっとした。ぶわっと顔に血が集まるのを感じる。

私の馬鹿、なんでお礼じゃなくてどうでもいい感想言っちゃってんのよ!

しかし時すでに遅し。私の手を包んでいたハルの力がさっきよりも強くなった。

「ちょっ、ハル、恥ずかしい・・・」
「陽子がかわいいこと言うのがいけない。もう・・・」

大好き。


おしゃべりをする時の音量よりは小さく、だけど私にははっきりと聞こえる声でそう言った。
ハルの甘いマスクには優しい微笑みが浮かんでいる。