たとえば、羅利子がパンを想像したとする。


見た目、匂い、手触り、やわらかさ、くわえたときの歯触り、咀嚼したときの食感などを、細かく時間をかけて想像する。


すると、羅利子の目の前に、そのパンがあらわれる。


そのパンは、幻覚である。他のひとには、当然目に見えない。


しかし、そのパンは、幻覚なのに、手触りがある。焼きたての匂いもするし、噛むと歯触りもある。甘い味もある。


羅利子は、視覚だけではなく、触覚、聴覚、嗅覚、味覚、身体の五感の全てでその幻覚を感じているのだ。


つまり羅利子は、想像することによって、限りなく本物に近い、リアルな幻覚を自由に見られるようになっていたのである。


羅利子はこの特殊な想像力で、欲しいものをいろいろと想像して、その幻覚を楽しんできた。


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