「綺麗な菊だね」


自分の席に飾られてある花を見つめながら、雅彦はつぶやいた。


午前の授業中。教壇では、初老の数学教師が黒板に数式を書いており、生徒たちは黙ってそれをノートに写している。教室に、チョークの音が響く。


誰も、教室を歩き回る雅彦の存在には気がつかない。


幻覚だから、当たり前なのだが、それでも羅利子は、不思議な気分になる。


木川奈津の席を見た。


葬式が終わってから、もう一週間以上たつのに、彼女はまだ欠席している。


まだ、雅彦の死を悲しんでいるのね。馬鹿な女。悲劇のヒロインにでもなった気でいるのかしら?そんなことで、死んでしまった雅彦が喜ぶと思っているの?


あざけるような笑みを浮かべて、幻覚の雅彦に目をもどす。


それにくらべて、新しい幸せを手に入れて、彼の死から立ち直った私は、なんて素晴らしいのだろう。