「風宮旬」



見られた見られた見られた見られた。


ぼくは、机の下で拳をにぎりしめた。手にかいた汗がすごい。足が震えている。動揺が顔に出ないよう気をつけたつもりだったが、たぶん無理だろう。
だが、どうにか金屋君には、ばれていないようだった。危なかった。
「気分悪いなら、保健室行けよ」
「うん、大丈夫。ありがとう」
そこで会話がとぎれた。
沈黙がおとずれる。
金屋君は、無言で席につくと、バッグから教科書やノートを取り出し、机の中にしまった。


ぼくは、机の横のフックにかけてある、自分のバッグに何度も目をやった。ファスナーが開いていないか、入念に確認する。


バッグの中には、ゴスロリ風の黒いドレスと化粧品が入っている。


つい、さっきまで、ぼくが身につけていたものだ


ぼくは、女装趣味者だ。


週に一度、女の子の服を着て、深夜の街を歩きまわるという行為を楽しんでいる。