生徒会室の真ん中で、色摩さんは、「椅子」に座って足を組んでいた。こちらを見て、大人っぽい笑みを浮かべている。


ぼくは、色摩さんが腰かけている、その「椅子」を見て、ぼうぜんとしていた。


その「椅子」は、四つん這いになった校長先生だったのだ。


今年で確か六十五歳になる校長先生が、恍惚とした表情を浮かべながら、犬のような姿勢で人間椅子になっていた。色摩さんは、そんな校長先生の背中の上に、まるで公園のベンチでくつろいでいるかのような、リラックスした様子で座っていた。


「・・・・・・・・・・・・」
「風宮君、どうかしました?」
「・・・・・・・・・・・・」
「顔が青いですよ?」
「・・・・・・・・・・・・何でも、ないよ」


ぼくは、一生懸命見なかったふりを決めこむことにした。


「・・・・・・色摩さん、話って何?」
「ああ、女装のことですよ」
「・・・・・・・・・・・・」
いきなり本題からくるか。
「別にあなたの趣味を否定しようとは思ってませんよ。ただ生徒会として言わせてもらうと、学校でああいう格好をすることは、今後、ひかえてもらいたいです。他の生徒に見つかると、あなたも面倒なことになるでしょうからね」


学校のロッカーで亀甲縛りをやってた、あんたに言われたくない、と反論したくなったが、必死で言葉を飲み込んだ。一応、彼女の言うことは、筋が通っている。


「・・・・・・わかりました」
「よろしい。このことは、わたしの胸だけにしまっておきますから」
「すみません。ありがとうございます」
ぼくは、頭をさげて、生徒会室から出ようとした。すると、色摩さんに、呼び止められた。
「風宮君、ちょっと待ってください。話はまだ終わってませんよ」


・・・・・・・・・・・・きた。