せいじさんとのことがあってしばらくした時、
上から命令があった。
『阿坐彌のトップの女をさらえ。』
と。
これは、俺たち紅だけじゃなく、
龍や鮫にも出た命令だ。
これを聞いたのは、紅のトップ、
せいじさんだった。
上からそう言う命令があった。
それを伝えたとき、
恭弥さんがせいじさんに掴みかかった。
「ふざけるな…っ
…あいつのことだぞ!?」
そう言った恭弥さんの顔は、いつもとは想像のつかない恐ろしい顔だった。
…それだけ“あいつ”が大切なんだろう。
俺には理解できないけどな。
そんなやつ、できたことないから…
「…俺だってそんなことしたくねぇよ」
蚊の鳴くような声でそう言ったせいじさん。
「じゃあやめようぜ…?」
恭弥さんはそう持ちかけた。
「悪いけど、それはできない。」
そう、はっきりと告げたせいじさん。
「なんでだよ!!!」
そう、声を張って叫んだ恭弥さん。
「俺にだって…俺にだって大切なものはあるんだよ…っ!」
そう、急に声を張り上げたせいじさん。
みんなが驚いて口をつぐんでいると、
「…悪い。
でも、無理なんだ。龍の奴らに脅されたから。
『逆らったらお前の母親と妹、犯すぞ』ってな。
…俺にはこれしかできないんだよ…」
そう言ったせいじさん。
どれだけ妹思いかも、母親思いかもわかってる俺たちには、何と言うこともできなかった。
「…じゃあ」
そう口を開いたのは恭弥さん。
「俺は紅鮫抜ける。」
そう、俺達に向かって言ってきた。
「恭弥さん?」
レンがありえないとでも言いたげな顔でそう言った。
正直、俺もそう思った。
俺たちを裏切るんだ…って。
でも、それは違ってた。
だって、この後に言ったから。
「お前たちは、せいじの妹と母親守ってやってくれよ。」
って。
でも、せいじさんは言った。
「俺はいいから、お前らは恭弥のところ手伝ってやってくれ」って。
それから、恭弥さんとせいじさんの討論が始まった。
「俺に付き合う必要はねぇんだよ。
俺は葵に話に行くから。
でも、お前一人でなんとかなるわけねぇだろ?」
「俺はうまくやるから平気なんだよ。
お前の方が1人でなんとかできないだろ?」
「俺のところに来たら、何が起こるかわからねぇんだ。来させるわけにはいかねぇ。」
「俺だってそうだ。
邪魔しなければ犯されないなんてゆう確信は無いんだから。」
「それならいっそ、お前らは関わるな。」
そう言ったのは、恭弥さんだった。



