ふと、歌声が途絶えた。
同時に目を開ける。

気がつくと、一筋の涙が頬を伝っていた。


涙・・・・?


嘘だろ・・・・


生まれて一度も、音楽で泣いたことなんか無かったのに
感動の涙なんて初めて流した。


こんな感覚初めてだった。


足を一歩踏み出してみる。

じゃり

音がした。
俺の気配を感じて、ベンチにいる少女が振り返った。




瞬間、時が止まった。

柔らかそうな髪が揺れる。
肌が透き通るように白い。
大きな瞳をいっぱいに見開き、俺を見ていた。
着ている制服はここらで有名な私立女子高のもの。



人形のような女の子だった。



顔立ちがすごく可愛い。
思わず見惚れた。


女の子は驚いた顔で俺をじっと見つめる。

「あっ・・・・」

声をかけようとすると女の子は困った顔になり
急に立ち上がって、慌てて走り出した。


時が動き出した瞬間、去っていってしまった。



取り残された俺は呆然として、さっきの歌声を思い出す。


あの不思議な声。

色んなものがたくさん混ざり合った複雑な歌声。

たくさんの感情があふれ出て涙になった。


俺の腕にはまだ鳥肌が残っている。
今まで聴いたことのない
特別なもの。


「桜凛のこか・・・」


彼女の歌声が耳に響いて離れない。

もう一度聞きたい。

そう思った。

彼女の歌声をもう一度聴きたい。