「あの、義経様…こんな夜更けに、何かございましたか?」




しばしお互いに俯き合った後、そっと郷御前が口を開く。

その言葉に義経の肩がビクリと跳ねた。


そんな些細な反応も郷御前は見落とすことをしない。


郷御前は不思議に思っていた。


こんな夜遅く。まるで人目を避けるようにして彼女のもとにやって来た義経。


夫婦なのだから不自然なことではないのかもしれない。


しかし少しばかり強張った表情と、どこか決意を秘めた瞳をした彼が何もなくこの場に来たとは郷御前には到底思えなかった。