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「…大丈夫か、郷」


「お前様…はい…申し訳ありません。少し、疲れてしまったようで…」


「そうか…なに。気にするな」




虫の鳴く声と草木が揺れ傘なり合う音だけが聞こえている夜深くの吉野。

そんななか優しく労るような男の声と微かに聞こえる女の声に静御前は目を覚ました。


顔を向けなくてもわかる声の主たち。


宝物に声をかけるような柔らかな声は義経のもの。

そしてそれに答える儚げな声は正室・郷御前のものである。


静御前は聞こえてきた二人の声に、背を向けたまま身動きすることなく耳を澄ませた。