その様子を見ていた誰もが初めて飾りなどではない"郷御前"の姿を目の当たりにしたのだ。


ただ義経だけが一人満足そうな笑みで郷御前を見つめている。




(あぁ、これが…)




これが源義経の正室か、と。そう静御前は悟った。

これが違いなのかと感じたのだ。


もうこれ以上何かを言うべきではないだろう。

もしここで反論すれば、静御前と郷御前の差が歴然となってしまう。


そんなことをするほど静御前は馬鹿ではない。女としての意地もある。




「……道中、お気を付けて」




その言葉がせめてもの悪足掻きだった。