「ーっ静!」


「よいのです!」




一瞬、空気が止まった。

誰も何が起こったのか理解できない。そんな顔をしている。


そんななかで誰よりも早く正気を取り戻したのは義経だった。

怒気を孕んだ声で強く静御前の名を呼ぶ。


そんな今にも飛び掛かりそうな勢いの義経を遮ったのは、今しがた静御前の手のひらがその頬に直撃した郷御前だった。


彼女にしては珍しい凛とした声に一瞬義経の足が止まる。




「郷…!」


「よいのです、義経様」




それでも駆け寄ろうとする義経を制して郷御前は真っ直ぐに静御前と向き合う。


瞳を逸らすことは許されない。