郷御前。


義経のただ一人の正室─愛する女─。



同じ女である彼女。何より元々温室育ちのお嬢様。

側室への文句すら口にすることのない物静かな彼女が、この山を越えられるとは到底思えない。

体力の面では明らかに静御前が勝っている。



それでも義経に彼女を置いていくつもりが毛頭ないことを静御前は知っていた。

それを、目の当たりにしていた。


それは昨夜遅くのこと。