ここ数日でぐっと冷え込んだギディオン王国。

ここのところしんしんと降り積もった雪で城の景色はすっかり様変わりしていた。

木枯らし吹く寒々しくも寂しげな雰囲気は消え去り、デコレーションケーキのようなメルヘンな世界が広がる。

雲間から覗いた日の光に当たってキラキラと輝く景色。

雪をかぶったアランの塔。

その三階の正室の部屋からは、今日も愉しげな声が聞こえてきていた。



「あぁエミリー様、違いますわ。こちらを先になさらないと―――ほら。こうして、こうですわ」

「えっと・・・ここを、こう?」

「そうですわ。とてもお上手です」


暖炉の火を点した温かなお部屋の中、仕立屋さんの店員リリアさんと向き合う。

無理を言って、ここのところ毎日来てもらっていた。

こんなに雪が積もってるのだもの。ほんとうは、わたしが行ければいいのだけど・・・。

アラン様にお許しをもらうのがとても難しくて―――


ちょっぴりお腹が目立ってきたリリアさんは、安定期に入って食欲が増してきたそう。


「全く困ったものですわ。我慢出来ないんですのよ」



溜め息混じりにそう言いながら、焼き菓子に伸びる手が止まらない。

赤ちゃんの分も食べなくてはいけないもの、食べる量が増えるのは当然のことだわ。

そう言うと、リリアさんはとても幸せそうに微笑んだ。

とてもうらやましい。

いつかは、わたしにも授かるかしら―――――


テーブルの上には焼き菓子と紅茶が置かれている。

先日飾ったクリスマスツリーは、今お部屋にはない。



あの日の夜、お部屋に来たアラン様は、すぐにツリーを目に止めて――――




「―――君の探し物とは、これだったのだな?」

「えぇ。リックさんに戴いたのを飾ったの。とても可愛いでしょう?」


―――どうですか?


ワクワクしながら、ツリーを眺めるお顔を覗き込む。

と。

アラン様はとても短いお返事をしたあと、口元に手を当ててしばらくの間黙り込んでしまった。


・・もしかしてこれはやっぱり、ここに木を持って来てはいけなかったのかしら・・・。

またわたし、規約違反をしているの?



「・・・アラン様?・・いけなかったのですか?」