依頼してきた中島というさえない男。

ウチは中島の夢の中を見ていた…

ウチがうけた依頼はここで終わり

他人の夢の中を見続けるわけにもいかない。

ウチは筆を置いた。

中島をゆっくりと起こす

中島さん!

おーい!!

…中島の目が覚める

中島さん、1度だけ見せます。この絵の女性に会ったことはありますか?

…いえ、ありません。

依頼終了。

2人の記憶はないみたい…

父よ!!

【父】なんじゃあ!!

終わったよ

【父】そうか…ようやったの

中島は一言お礼を言うと、今度結婚する女性を連れてくると言って帰って行った。

しゃむよ、依頼は依頼
わしらが踏み込んでいいのは依頼内容だけじゃぞ!

わかってるよ!

それならいい…感情に流されるな。

うん…。

何かモヤモヤする。最後に出てきた女性はどうして病院に居たのだろう…そして中島のことを恨んでいる様子だった。
だけど2人は結婚…か…。




中島の夢を消してから2日して女性が訪ねてきた。

【女 】こちらで見たくない夢を消してくれると聞きました。消せば記憶も消えると…。わたしの夢に出てくる男を消してもらえませんか。

…あの時の夢の女性。。

父よ…中島の結婚相手だ

【父】ほう

ほうってほんとに父は人ごとだな…

ウチは想像していたが男の写真を見せてもらった。

中島だ…。

【女】婚約相手です。

わたしは谷沢千恵といいます。
よろしくお願いします…。

千恵さんですね。
はい、こちらこそ。

【千恵】
彼とは幼馴染であまり目立たないけど優しい人でした。

高校卒業して就職してわたしたちは2人でアパートに住んで平凡な、それでも彼と居ると気持ちが柔らいで毎日がわたしには十分幸せでした。

わたしは身体が弱くて入院することもあって…

家にいないときもあって…

彼は浮気していました。

もてるほうではないと思ってましたが…

おかしいなってわたしは調べました。

…彼は女性からお金をもらって、物をもらっては売って…本当に最低で…

そんなことしてまで…

わたしの治療費を彼が払っていて…彼にそんなに収入があるわけじゃないのにおかしいと思ってました。

服を買ってきたり、マンションの話をしたり…

ドライブ行こうって言ったり

彼のしたことは悪いことです…女の人を騙してた。

お金もどこからか借りてるみたいで…

これ以上彼にはそんなふうにして欲しくない

最近は楽しかったころの
彼の夢ばかり…その夢を描いて欲しい。

…千恵さん…

【父】しゃむ、私情をはさむでない。

( …彼女から中島の夢を消せば中島を忘れることになる。
中島は…お金を作るためにアホなことをやってん…アホな男や…
だけど、結婚したいというし他の女性とも話はついたと言っていた。

きっと千恵さんは中島にそんなことをさせたくない

好きだから忘れて欲しいのかな…ウチにはわかんないよ)

…父よ

(父は頷く )


確認です。
1度写した夢は2度と現実では起きません。
その男性のことも一緒に記憶から消えます。

【千恵】はい。

( …
もし彼が千恵さんを訪ねて来ても…思い出すことはきっとない。結婚もない。 )

【千恵 】はい。手紙を置いて来ました。彼の浮気を許せないと…別れはつたえました。


…わかりました。

横になってそのまま目を閉じて下さい。

【千恵】
…はい…。。

起きたときには…

(父は首をふっている)

眠りについたら千恵さんの夢の男性を描きます。



ウチは千恵さんの夢に入った…。中島との思い出ばかり、恋愛なんてわからないウチには消せん…
どうすればいい。。。
お見舞いにくる中島…ここに来た時とは違って優しい顔をしている。
夢は夢…千恵さんの見る中島はいつもこうなのか…恨んでる様子もない。中島の夢での千恵さんとは違う。

夢は夢だ

人によって見え方は違う…千恵さんは中島の幸せを望んでる。

中島は…最低だけど千恵さんと一緒になりたかった。感動物語なら朝昼夜働いたんだと思う…中島はだれかを騙してる。。。

千恵さんの望み…願い

ウチは筆をとる

千恵さんの夢の中

…千恵さんに微笑みかける中島がいる。

さえない中島じゃない…優しい中島やんか。。。

なんですれ違ったんや…

話せば戻れるんじゃないのんか
ウチわからんくなった

父の声がする…

(しゃむ、おまえは夢写師だ2人の仲をとりもつことが依頼じゃない…そんなことは誰にもできない。
千恵さんの依頼を聞くことが夢写師として今やることだ)

…わかるよ。

そんなこと…。。。

なんなんや…嫌な男の夢消すだけやと思ったのに…

なんでや…

好きなんやったら…お互い好きならいいやんか!

【父 】しゃむ…おまえができないなら夢写師としてやっていけない


父よ
ウチはなりたくてなったわけじゃない!!

なんにも幸せにならんやないか!

【父】そうやったな、やけどな…これは誰が望んだことや?おまえか?



【父】おまえは迷わず中島の依頼を請けて描いた。

それは…

【父】人生相談じゃない
彼女が決めたことだ。
彼女が軽い気持ちで来たと思うか?中島が罪悪感無しでいたと思うか?

夢写を続ければ葛藤は今からもいくらでもある。

やめるか?



…ウチは千恵さんの夢を描いた、たくさん描いた。
数時間は描いたと思う…

幸せな夢やないか。。

千恵さん…中島…2人ともようわからんわ…


あの…


千恵さん目が覚めましたか…

【千恵】長い夢を見てました。優しい男性が出てくるんですよ…



それはこの写真の方ですか?

【千恵】いえ…顔はおもいだせません。わたしの知ってる人ですか?


…いえ。

終わりました。

千恵さん。身体に気をつけてください。

…千恵さんは軽く微笑み帰っていった。

父よ!ウチは納得できん!!

…しゃむよ、これは彼女の望みだ。しゃむの思いと彼女の願いは違う。
人それぞれの生き方や相手の想い方がある
お前の思うハッピーエンドと誰かのハッピーエンドは違う

そんなの
わからんわ!!

ウチは飛び出した…



数日後…中島さんが訪ねてきた。

彼女との結婚はなくなったらしい。
別れを告げられて…病院に行って。

千恵さんは末期の癌で… なんでも買ってあげたかった…やり方を間違えたたけどお金がどうしても必要だったってウチに言った。

中島さんに残ったのは借金と彼女の思い出…

【中島 】
彼女とは幼馴染で…付き合いも長くて自分が道を間違えたこともわかってます。リセットしにここには来たつもりでしたが、都合のいいようにはいかなかった。罪悪感は消えないものですね。女の人が2人訪ねてきました。誰かにきっと悪いことをしたんです。

病院にも行きました

彼女、僕のこと知らないって言うんです。

…なんの冗談なのかもうわからなくて…

罰ですかね。。。

だけどこれは彼女の優しさだと受け取ってます…たくさんたくさん思い出はあります。

きっと忘れたなんて嘘だから


…中島さんは泣きながら話す…最初に見たときは何かに取り憑かれたような今思えば必死だったのかなとも思う。
ウチがしたことはなんなんや…。。。

【中島 】
これから彼女のところに行きます。きっと忘れたふりをしてるんですよ
…ですよね。

ウチは
はい、とだけ答えた。

そう言って中島さんは千恵さんのところに行った。

父よ…

しゃむ、わかってるじゃろ、何があっても人の依頼を漏らしてはならない

じゃあ
ウチがしたことはなんになった?!

2人は幸せになってない!


しゃむよ、おまえができることは2人を幸せにすることじゃない。

この先は2人にしかわからない。

?!

父よ…記憶はなくなってる…思い出すこともないんじゃないのか?

…しゃむ、夢は夢だ、強い思いがあればまた思い出す。夢写師としては半人前だ、おまえはすべての夢を描いてないだろう。

じゃあ…

うむ、この先は2人のことだ

…うん。

ウチは今まで遊びで夢を描いていた。夢写師が何をするのかまで考えてもなかった。こんな依頼だとも…

(病院 )

【中島 】

千恵…。

【看護師】
また来てるわよ…毎日毎日…警察呼ばないといけなくなるわ…