「…なぁ、ちなみ、ちなみ」

ぼーっとしている私の顔の前に手のひらをちらつかせ、恭介は私を呼んでいた。

「え? …あぁ」

びっくりして我に返った私を見て、彼は怪訝そうな顔をしていた。

「何?」

取り繕うように、私は聞いた。

「何って、お前…。人の話で寝たふりなんてひでーな」

「あぁ…」

目の前の彼の話など、まったく耳に入ってはいなかった。しかし、謝る気もなく、私は曖昧に相槌を打った。

「だからさ、愛佳ちゃんって、誰か好きな人いんのかな?」

彼は、食べ終わったアイスの棒をくわえながら、相変わらず呑気そうにそう言ったのだ。

ため息をひとつ、私の口から漏れる。それもかなりわざとらしく吐いて、私はすっくと立ち上がった。

「同じ大学に行きたきゃ、勉強しろ、勉強。愛佳に置いてかれるよ」

私は彼にそう言い放つと、そのまま二階の自分の部屋に向かって行った。