「も、もう!お母さんってば、何言ってるのよ…。ちゃんと夜には帰って来るわよ…。」
「でも、蓮君が柚を帰すか分からないでしょ?男の子は…好きな女の子の前では狼になっちゃうんだから!」
「お、狼っ…!?」
口をパクパクさせる私。
ケーキ作りの手を止めたまま固まっていると、お母さんにポンポンと頭を撫でられた。
「ほらほら、ケーキ…早く完成させないと、蓮君…迎えに来ちゃうわよ?」
「う、うん。まだかなり余裕あるから大丈夫だよ。蓮が来るのは、お昼過ぎだもん…。」
時計をチラリと見てから、笑顔で答えた。
そう、午後になったら…蓮がわざわざ私の家まで迎えに来てくれるのだ。
蓮の家に行くわけだし、一人で大丈夫なのに、“それはダメだ”と即行で拒否された。
“一人は危険すぎる”と言うのが理由なんだけど…
これは今に始まったことじゃない。
これまで、休日に蓮とデートする時や、蓮の家にお邪魔する時は、殆どの場合…私の家が待ち合わせ場所だった。
なんだか、やけに私のことを心配してるみたいなんだよね…。
方向音痴…ってわけじゃないから、大丈夫なんだけどな…。