春の陽気が通り過ぎて、半袖が欲しくなってきた頃
僕は、電車に乗って、一人で山奥のおばあちゃんの家に向かっていた
僕は最近、たくさんの嫌な思いをした
みんなが僕のことを嘘つきと呼んで嫌う
僕はただ、見えているものを伝えているだけなのに
電車の向かいの席に座る、小さくてふわふわした半透明の変な生き物
物心ついた時から、こんな風の生き物が僕のそばにずっといた
いや、
いたるところにずっといた
うたた寝をするお母さんの膝の上に
酔って、頬を赤く染めているお父さんの背中の上に
ゲームに没頭する弟の顔の前に
気がつかないのがおかしいくらい近くにいた
たまにそれを指差して人に話しかけると、みんな変な顔をした
僕の好きな顔ではなかった
お母さんにも同じことを話すと
「翔太、そのことは他の人に言ってはいけないよ」
と言い
翔太、翔太と、僕の名前を呼びながら泣いたのだった
もう少しだけ大きくなると、その生き物は僕にしか見えていないとわかった
理解したと同時に、僕は人と話さなくなった
ただその淡い色を帯びた、不思議な生き物を眺めていることだけが僕の楽しみだった