「え?」
「はぁ、まったく」
ぽかんとしている僕を見て、大きなため息をつく
「まぁ、私は高貴な妖じゃからの、お主の名など知ったところで、どうもこうもせんわ」
微妙にけなされた気分もする
するとまた前を向いて歩き出した
「だから待ってって!」
女の子は器用に飛び出た木の根などを避けながら森を抜けて行く
妙に居心地の悪い沈黙に耐えかねて、僕は女の子に話しかける
「ねぇ、君はなんであんなところにいたの?」
「昔粗相をしてな」
「粗相って?」
「言ってもわからんよ」
適当にあしらわれているとしか思えない
「君はなんて名前なの?」
その質問を投げかけると、女の子は立ち止まってこっちを振り向いた
「翔太、お前にはさっきあれほど真名を知られてはならぬと教えたじゃろう、私とて同じことだとわからんのか」
「......だって呼ぶ時に困るじゃないか」
多少の沈黙
口を開いたのは彼女だった
「チヨ」
「え?」
「私の名はチヨだ、そういうことにする」
「それって、真名?」
「もちろん真名ではない」
「そっか」
ちょっと残念だったけど、教えてくれただけ嬉しいと思った
「可愛い名前だね」
するとチヨは、ポンっと顔を赤くした
「うううるさいっ!」
そう言ってくるりと背を向けて、半ば走るような勢いで森を抜けて行く
「ちょっとまってよ!!」
ぼくも後を追って走り出すけど木の根が邪魔で走りにくい
「うわっ!」
小さく飛び出ていた根に気づかずに走っていたスピードのまま転びそうになる
「翔太?」
視界の隅で、チヨがこっちを振り向いた



