「禁術なんですよ。


人魚姫になることは、人魚の力を失わずに人の足を手に入れるズルの魔術ですから。


他の人魚には不可能かもしれないけど、私は海の魔女の末裔なんです」


淡々と話しながら人魚の彼女は用意を進めていく。


「あなたは人間でも人魚でもない、半端な存在になります。


あなたは恋をしてはなりません。


そうしないと、泡になって消えてしまうから」


最後に綺麗な鱗を一枚剥がして彼女は言った。


「この鱗を飲んでください。そしたらあなたは孤独な人魚姫になります」


口に含んだ鱗は雪のように溶け、甘い味を舌に残した。


「さようなら。もう会うことはないでしょう」


私はその後、一度も彼女に会うことはなかった。