誰かにつけられている。


そんな嫌な感じがする。


心ちゃんの社を出て暫くしてからずっと誰かの気配が後ろにあって嫌な気分。


わざと家から遠ざかるルートに逸れて、相手を誘い込む。


ひゅんっ、と風を切る音がして小型のナイフが飛んできた。


予測していたので容易く避けられる。


くるり、と振りかえって相手を見るとやはり知らない人。


ここらには黒い髪の人なんていないし。


路地の闇に混ざることのない艶やかな黒髪の美しさに一瞬、見惚れた。


その一瞬を見逃してくれるわけはなく先程と同じ型のナイフを持った彼は音もなく私に忍び寄る。


逃げるチャンスを逃した私の心臓を真っ直ぐに狙いナイフを持った腕を振り上げて。


その腕を下ろそうとする、刹那。


「~~~~♪」


私の歌が響き出す、と同時に彼は振り上げた腕もそのままに後ろへと下がり出した。


黒曜石のような瞳は驚きに大きく見開かれている。


「なっ、お前、人魚、か!?」


人魚の能力を知る人間がまだいたことに驚いた。


「ええ、私は人魚」


被っていたフードをはずしてコバルトブルーの髪を大気に晒す。


ふわっと風に吹かれて広がった髪を見て彼はナイフを下ろした。