眠くなってきた。


いつもの睡魔とは違う。


遠い黄泉に誘う、死の眠りへの道標。


繋がれていた手も力が抜けてアスファルトに落ちる。


まだ幼さの残る黒い瞳が近付いてきて彼の口が私の耳に寄せられた。


「今さら聞くけどさ。お前、名前は?」


低く心地よい声。


「海堂汐音。海堂家の長女」


蚊の鳴くような私の声を聞き取れたのか、立ち上がる気配。


「俺は、時廻薬。約束、きっと守るから。じゃ 」


つい先程までの弱々しい態度が嘘だったかのような堂々とした声。


ぴしゃ、ぱしゃ、という水溜まりを踏む音と共に彼は私のそばを離れていった。