音だけの世界からようやく現実に戻ってきた真崎の目に、二人はとても眩しく見えた。

「玲、帰ろう。」

駄目だと、理性が伸ばされた手にストップをかける。
心が引き裂かれそうに悲鳴を上げて、真崎の伸ばしかけた手が震えた。

「ダメだ・・・ダメ、なんだよ・・・。」

一体何が駄目なんだと、紺野の瞳が疑問を投げかけてくる。
水瀬は気づいたようだったが、不用意に言うような真似はしなかった。
まるで自分に言い聞かせるように〝駄目だ〟と呟き続ける真崎の手を、また母親が引いて行った。

「何が、駄目だと言うんだ。」

聞かないで。
首を横に振った真崎の目から、一筋涙が零れ落ちた。
こんな形でしか大切な人を守れない自分を罵ってほしいと、真崎は切実に願う。
できれば嫌われて、憎まれて、そうしたらきっと忘れられることはない。
水瀬と目が合えば、彼は馬鹿な事をするなと睨んでくるから、真崎は笑って再び目を閉じた。

もうなにも見えなければいい。