点滴をつながれた白い腕に巻かれた包帯の下には、生々しい真っ赤な切り傷があった。

自傷行為と自殺未遂。この二つの理由から、真崎は精神科の病棟に入れられた。
静かな個室には、刃物だけではなく、傷が付けられそうなもの全てが置かれないようにしてある。

「なんでだよ・・・。」

別れたのは随分と前のような気もするが、こうやって傍にいれば二人で過ごした時間を思い出す。
押谷が切り出した別れではなく、一方的な別れだった。
ノック音の後に、精神科医の大月が入ってくる。

「ああ、押谷君ここにいたんですか。そろそろ仕事に戻ってください。」

同じ病院に勤めている大月は、中学の時からの付き合いになる。

そこまで仲は良くなかったが、今では昼食も一緒に食べるほどになっていた。
ここに来たと言うことは、真崎の担当医になったということだろう。
大月ならば気心も知れているし安心だ。

「ああ、悪い。頼むわ。」
「ふふ。あの真崎さんが運ばれたことで、外は大変な騒ぎです。まったく、どこから嗅ぎつけたんだか。」

自分がしっかりと彼女を支えていれば、こんなことにはならなかったのかもしれない。
大月は押谷と真崎が付き合っていたことは知っていたので、悲しそうにしている押谷にあえて何も言わないでいる。

真崎から言い出した別れなのに、押谷が責任を感じることはない。
そう思っていても、今の状態の彼には何も聞こえないだろう。
大月は小さく溜め息をつきながら、押谷を病室から追い出した。