そんなふうに思っていると、いきなり彼女の方から握られる。
細い手からは考えられないぐらいに強い力だ。


「あ、油断しました?」

「・・・ああ。」


悪戯が成功した時の子供のように無邪気に笑った顔が、しばらく紺野の頭を占領する。
水瀬は横でにやにやと笑っているし、もしかしたらこの時にもう、二人のその後を見抜いていたのかもしれない。

目が放せないと、思った。



今だってそうだ。心配で仕方がない。
紺野は骨ばった手を握ると、悲しくなった。

もともと無駄な肉の無い女性だったことは確かだが、それ以上に不健康に痩せている。
あの頃のような無邪気な笑顔は、もう何か月も見ていない。

それでも離れられないのは、別れられないのは、同情だけではない。

同情で付き合えるほど、紺野は暇な男ではないのだから。

お互い、自分にないものを持っている。埋め合わせて、理解しあえる。
紺野は真崎のピアニストとしての苦悩を知っていて、真崎は紺野のプロテニスプレイヤーとしての努力を見ている。

それは互いに憧れて、尊敬して。