コンクールに出れば、楽譜通りではないと審査員から落とされ、一番拍手が多くても、特別賞で終わる。
どんなに音楽性が優れていても、自分の音というものを追求することは許されなかった。

交響楽団に入り、いよいよ自分の音を他の誰かと合わせられるのだと思えば、幸せだった。


なのに。


「死ねば、良かった。」


何度目になるか分からない同じ言葉は、誰にも届かずに消えた。

衝動的に切ったわけではない手首の近くには、同じような傷がたくさんある。
すぐに消えることのない傷は、付け始めたら止まらなくなった。

こうなってしまった自分を見捨てた人間は多い。
誰もいらないと思っていたのに、彼だけはずっとそばにいて、制止の言葉をかけ続けてくれた。

だけど、もう来ない。

大月は鏑木しか来ていないと言っていた。
きっと呆れて見捨てたのだろうと、真崎は声を上げて笑う。

自分でもどうしていいか分からない感情の起伏は、病んだ彼女を更に痛めつけていく。精神安定剤も、まだ使用することが出来ない。

寂しかったといえば、誰か傍にいてくれるのだろうか。