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その日の朝、正幸と麻子が会社に行くと、会社の前にはマスコミが殺到していた。
それをかき分けるようにして事務所に入ると、社長がにこにこ顔で、自分の机に座っていた。
その机の上には、新聞が広げてある。
その一面に載っていたのは。
『女性アマチュアキックボクシング選手、暴漢を一捻り!』
こんな見出しが、デカデカと載っている。
「どおりで、マスコミが外で騒いでる訳だ」
呆れたように、正幸が言う。
麻子は慌てて、頭を下げた。
「すみません、昨日、事件に巻き込まれてしまって…それで、あの…」
しどろもどろで言い訳をしようとすると、社長は笑って。
「最悪な目に遭ってしまったみたいだねぇ…でも、2人が無事で本当に良かった」
麻子はふと、疑問に思う。
社長はどうして、正幸が一緒だったことが分かるんだろう?
すると、社長はトントン、と新聞の写真を指差した。
そこには、犯人に拘束されている麻子と、何故か警察官に取り押さえられている正幸が写っている。
「彼女を助けようとした恋人が、必死に近付こうとして、って、記事に書いてありますよ」
「………」
2人並んで、開いた口が塞がらない。
「確かに最悪な日だったでしょうが、それだけではないみたいですねぇ」
社長は笑いながら、大きな箱を麻子に手渡した。
「私からの誕生日プレゼントですよ。ちゃんとロウソクも、33本用意しました」
「32ですっ!!」
叫んでから、麻子も笑う。
隣で正幸が、ポリポリと頭を掻いていて。
本当に、最悪だったが。
それだけではない。
麻子は本当に久しぶりに、最高の誕生日を迎えていた。
「麻子。今夜は2人で、クリスマスを祝おうな」
正幸が小さく耳打ちをする。
麻子は、満面の笑みで頷いた――。
【end】

