★  ★  ★



 その日の朝、正幸と麻子が会社に行くと、会社の前にはマスコミが殺到していた。

 それをかき分けるようにして事務所に入ると、社長がにこにこ顔で、自分の机に座っていた。

 その机の上には、新聞が広げてある。

 その一面に載っていたのは。



『女性アマチュアキックボクシング選手、暴漢を一捻り!』


 こんな見出しが、デカデカと載っている。


「どおりで、マスコミが外で騒いでる訳だ」


 呆れたように、正幸が言う。

 麻子は慌てて、頭を下げた。


「すみません、昨日、事件に巻き込まれてしまって…それで、あの…」


 しどろもどろで言い訳をしようとすると、社長は笑って。


「最悪な目に遭ってしまったみたいだねぇ…でも、2人が無事で本当に良かった」


 麻子はふと、疑問に思う。

 社長はどうして、正幸が一緒だったことが分かるんだろう?

 すると、社長はトントン、と新聞の写真を指差した。

 そこには、犯人に拘束されている麻子と、何故か警察官に取り押さえられている正幸が写っている。


「彼女を助けようとした恋人が、必死に近付こうとして、って、記事に書いてありますよ」

「………」


 2人並んで、開いた口が塞がらない。


「確かに最悪な日だったでしょうが、それだけではないみたいですねぇ」


 社長は笑いながら、大きな箱を麻子に手渡した。


「私からの誕生日プレゼントですよ。ちゃんとロウソクも、33本用意しました」

「32ですっ!!」


 叫んでから、麻子も笑う。

 隣で正幸が、ポリポリと頭を掻いていて。

 本当に、最悪だったが。

 それだけではない。

 麻子は本当に久しぶりに、最高の誕生日を迎えていた。


「麻子。今夜は2人で、クリスマスを祝おうな」


 正幸が小さく耳打ちをする。

 麻子は、満面の笑みで頷いた――。






【end】