座り込まれたままでは、思うように身動きが出 来なかったが。

 男が立ち上がってくれて、良かった。

 これで少しは身動きが取れる。

 これは、映画の撮影ではなく現実で。

 しかも、捕らわれのヒロインは、ただ泣き叫ぶだけじゃない。

 助けてくれる筈のヒーローは、警察官に押さえ込まれちゃっているし。

 それでもいいんだ。

 どんなに格好悪くても。

 大事な、と、言ってくれた。

 それだけでこんなに、安心出来るんだから。

 男は、更に近付いてきた警察官たちに、ナイフを向ける。

 その瞬間、麻子は拘束していた男の腕をすり抜けて。

 振り向きざまに、回し蹴りを一発。

 これでも、キックボクシングのアマチュア大会では、結構いい成績を収めているのだ。

 男は左手に5メートルはぶっ飛び、そのまま動かなくなる。

 一瞬、口をあんぐり開けたまま固まっていた警察官たちが、慌てて男を取り押さえた。

 こっちに、正幸が駆け寄ってくる。


「麻子!!」

「どうしてここにいるのよ?」


 腰に手を当てながら、麻子は言った。

 うん大丈夫、いつもの砕けた口調で話が出来る。


「あ、いや、その…」


 正幸は、答えられないでいる。

 麻子の後をつけてきたのは、わかりきっているのだが。

 そこは敢えて、ツッコミを入れないでおく。



★  ★  ★



 最寄りの警察署で色々と事情を聞かれている間も、正幸はずっと麻子のそばから離れなかった。

 そんなに時間はかからなかったが、帰る頃にはもう真夜中近くなり、ショッピングモールの明かりもイルミネーションも消えていた。


「なぁ、麻子」


 麻子の一歩前を歩き、コートの襟を押さえながら、正幸は言った。


「なに?」

「公園、これから行ってみるか?」

「………」


 そう来るとは思わなかった。

 立ち止まった麻子を振り返り、正幸は笑う。


「俺も一緒に行くからさ」