1分もしないで先輩は戻ってきた。
「行こう。」
ぐっと手をつかまれ、無理矢理歩かされる。
「うっ…ぜんばい…お、おがいげぇ…」
鼻声でぐずぐずだ。
「うん、今払ってきた。」
「え、ぢょ…」
引き留める間もなく、店の外に連れて行かれる。
先輩はぐいぐいと私の手を引き、人ごみを抜けていく。
「どこ行ぐんでずが…」
「いいから!」
いつになく焦った声。
身をゆだねるしかなかった。
「ごめんな、無理矢理引っ張って。」
ついたのは、閑散とした公園だった。
薄暗くて、あたりが良く見えない。
近くのベンチに促され、隣に座る。
顏をぐっと両手で持ち上げられ、至近距離で見つめあう体勢になる。
真剣な彼の瞳に、視線をそらせずにいた。
「なぁ、今の子たち、誰?友達じゃないよね?」
先輩は感づいている。
でも、知られたくなかった。
余計な心配もさせたくないし、恥ずかしい。
絶対に言えない。
いじめられてる、だなんて。
「と…友達ですよ?あはは、やだな、先輩ったら」
「無理して笑わないで。それに、だとしたらなんで泣いてんの?」
「そ、それはっ…」
言葉に詰まる。
先輩が手を離し、私から顔をそむけた。
「俺に言ってみなよ。一人で溜めこまないで。」
「ほんとに、なんでも…」
「なんでもあるだろ!俺、ちゃんと聞こえてた。
机たたいた時、調子こくなって言われたよね?」
なんで聞こえてんの。
先輩は、多分もう悟っている。
「それに、麗菜?とかいう子が俺と話してるとき、
ほかの二人が後ろで『なんであいつがこんな人と』って言ってた。」
もう、俯くことしかできない。
しばらく、沈黙が流れた。
「ごめん、強く言い過ぎた。
でも、自分の中に貯めない方がいいよ。秘密なら守る。
だから、言ってごらん?」
「はは…先輩って、なんでもお見通しなんですね。
もう…全部言います。」
後戻りは、できない。
「私、いじめられてるんです。ははは、みっともないですよね。
私が貧しいから…。変な噂が流されて。私、学校ではキャバ嬢なんですよ。
ただの店員なのに可笑しいですよね。」
不思議と、すらすらと言葉はでてきた。
「でも、どうでもよかったんです。学校は勉強しに行くところだし、バイトに行けば友達もいる。でも…なんででしょうね。今日は…」
そこまで言うと、体が急に何かに包まれた。
初めは一瞬、何が起きたのか分からなかった。
…先輩に、抱きしめられていた。
強く、強く。
「ちょ…先輩、誰かに見られてたらどうするんですか!?」
「いい。いいから黙って。」
さらにぎゅっとされ、何も言えなくなる。
心臓が痛いほどドキドキなっている。
聞こえちゃうんじゃないかと思うぐらい。
すごく緊張しているのに、なぜか落ち着く。
私はそっと、体を先輩に委ねた。
どれくらい時間が経っただろう。
先輩が身体を離した。
「…ごめん。」
「いえ…大丈夫です…」
先輩は耳まで真っ赤に染まっている。
私も人のこと言えないけど。
ドキドキして、なんだか焦れったくて…。
あー私、先輩に本気で恋したんだな。
大切な人を失いたくない。
それなのに、大切になってしまった。
お父さん、お母さん…ごめんなさい…。
私だけ…。
「ありがとう。話してくれて…」
「いえ…」
なんだかぎこちない。
「あ、あの!もう遅いので、帰ります…。」
時計は十時をまわっていた。
「あぁ、そうか…悪かった。送るよ。」
「大丈夫です!家遠いので…。」
まだ、間に合うかも。
今、諦めれば…
「せめて駅まででもいいかな?」
先輩は本当に心配そうで、断れなかった。
「…わざわざありがとうございます。」
来た時とは違って、少し距離の空いたまま、歩き出した。
「行こう。」
ぐっと手をつかまれ、無理矢理歩かされる。
「うっ…ぜんばい…お、おがいげぇ…」
鼻声でぐずぐずだ。
「うん、今払ってきた。」
「え、ぢょ…」
引き留める間もなく、店の外に連れて行かれる。
先輩はぐいぐいと私の手を引き、人ごみを抜けていく。
「どこ行ぐんでずが…」
「いいから!」
いつになく焦った声。
身をゆだねるしかなかった。
「ごめんな、無理矢理引っ張って。」
ついたのは、閑散とした公園だった。
薄暗くて、あたりが良く見えない。
近くのベンチに促され、隣に座る。
顏をぐっと両手で持ち上げられ、至近距離で見つめあう体勢になる。
真剣な彼の瞳に、視線をそらせずにいた。
「なぁ、今の子たち、誰?友達じゃないよね?」
先輩は感づいている。
でも、知られたくなかった。
余計な心配もさせたくないし、恥ずかしい。
絶対に言えない。
いじめられてる、だなんて。
「と…友達ですよ?あはは、やだな、先輩ったら」
「無理して笑わないで。それに、だとしたらなんで泣いてんの?」
「そ、それはっ…」
言葉に詰まる。
先輩が手を離し、私から顔をそむけた。
「俺に言ってみなよ。一人で溜めこまないで。」
「ほんとに、なんでも…」
「なんでもあるだろ!俺、ちゃんと聞こえてた。
机たたいた時、調子こくなって言われたよね?」
なんで聞こえてんの。
先輩は、多分もう悟っている。
「それに、麗菜?とかいう子が俺と話してるとき、
ほかの二人が後ろで『なんであいつがこんな人と』って言ってた。」
もう、俯くことしかできない。
しばらく、沈黙が流れた。
「ごめん、強く言い過ぎた。
でも、自分の中に貯めない方がいいよ。秘密なら守る。
だから、言ってごらん?」
「はは…先輩って、なんでもお見通しなんですね。
もう…全部言います。」
後戻りは、できない。
「私、いじめられてるんです。ははは、みっともないですよね。
私が貧しいから…。変な噂が流されて。私、学校ではキャバ嬢なんですよ。
ただの店員なのに可笑しいですよね。」
不思議と、すらすらと言葉はでてきた。
「でも、どうでもよかったんです。学校は勉強しに行くところだし、バイトに行けば友達もいる。でも…なんででしょうね。今日は…」
そこまで言うと、体が急に何かに包まれた。
初めは一瞬、何が起きたのか分からなかった。
…先輩に、抱きしめられていた。
強く、強く。
「ちょ…先輩、誰かに見られてたらどうするんですか!?」
「いい。いいから黙って。」
さらにぎゅっとされ、何も言えなくなる。
心臓が痛いほどドキドキなっている。
聞こえちゃうんじゃないかと思うぐらい。
すごく緊張しているのに、なぜか落ち着く。
私はそっと、体を先輩に委ねた。
どれくらい時間が経っただろう。
先輩が身体を離した。
「…ごめん。」
「いえ…大丈夫です…」
先輩は耳まで真っ赤に染まっている。
私も人のこと言えないけど。
ドキドキして、なんだか焦れったくて…。
あー私、先輩に本気で恋したんだな。
大切な人を失いたくない。
それなのに、大切になってしまった。
お父さん、お母さん…ごめんなさい…。
私だけ…。
「ありがとう。話してくれて…」
「いえ…」
なんだかぎこちない。
「あ、あの!もう遅いので、帰ります…。」
時計は十時をまわっていた。
「あぁ、そうか…悪かった。送るよ。」
「大丈夫です!家遠いので…。」
まだ、間に合うかも。
今、諦めれば…
「せめて駅まででもいいかな?」
先輩は本当に心配そうで、断れなかった。
「…わざわざありがとうございます。」
来た時とは違って、少し距離の空いたまま、歩き出した。
