「ごちそう様でした。」
「あー、おいしかった。また来ようね!」
また、か…
来たいような、来たくないような…
いや、ほんとは来たいんだろう。
でも、怖い
これ以上好きになることが。
大切になることが…。
それに、私だけ幸せになっていいのだろうか。
「次はどれにしよっかなー。」
意識しているのか素なのか、先輩はあれ以来「本題」を切り出さない。
どう考えてもきりが悪いのに。
まぁないちゃったしな。
このまま何事もなかったように帰って、明日は普通に戻るんだ。
そう、「また」はもうない…。
その時だった。

「あれー?こんなところで何してんの?」

聞きなれた声。
思わず身体がこわばり、うつむいてしまう。
「……久保さん…」
「いつも教室の隅でうじうじしてるから、こんなとこに来るなんて思わなかったぁ」
なんだかいつもより声のトーンが高めだ。
「こんにちは!もしかして…彼氏ですか!?」
夏帆がいきなり切り出す。
目的はそっちか。
「いや…違うけど…お友達?」
先輩が私に尋ねる。
うなずきたくない。
黙っていると、
「はい、同じクラスなんです!初めまして、後藤理沙です。」
「あ、私は西脇夏帆です!」
勝手に自己紹介を始めていった。
今すぐ帰りたい。
「ねぇ、こんなとこでなにしてんの?ケーキまずくなる」
麗菜がぼそっと低い声で私にささやくと、
「友達の、久保麗菜です。よろしくお願いします!」
声のトーンをぐんとあげ、手を差し出す。
いきなりの登場に、先輩も戸惑っているのが分かる。
「どうも…小野寺洸一です。」
握手をしながら自己紹介をする。
「洸一さん、って言うんですかあ!お二人はどういう関係なんですか?」
お願い。やめて。
「バイト先の先輩と後輩ってとこかな」
答えないで。こいつらと関わらないで。
「どこでバイトしてるんですかあ?」
先輩にこれ以上触れないで。
やめてやめてやめてやめて

バンッ

気づいたら、立っていた。
手がじんじんする。
周りの好奇の視線と、3人の冷たい視線が突き刺さる。
「…あんた、なにしてんの?」
「うっざ。まじ調子こいてんじゃねーよ。」
口々にぼそぼそといわれる。
先輩に、聞こえないように。
震えてくる。
悔しくて、泣いた。
今までどうでもよかったのに。
なんで、今泣いてるんだろう。
下を向いているが、誰が見ても泣いている。
「えっとー…あたしたち、そろそろ失礼しますね?」
「あは、じゃあまた。」
そそくさと出で行く。
すとんと力が抜けて、椅子に座る。
なんで抑えがきかなかったのだろう?
さっきとは明らかに違う涙が伝う。
あーもう、今日は泣いてばっかりだ。
「ちょっと待っててな?」
ぽんぽん、と私の頭をたたくと、どこかへ行ってしまった。
泣き顔を見られなくて済む。
でも、なぜかさみしかった。