でも、これ以上みっともないところを見られたくない。
それに。
もう、大切な人をつくりたくない。
つくれば、失う。
もう二度と失いたくない。
だから。
これ以上好きになる前に…。
彼から、離れなければ。
深く深呼吸をする。
「…ごめんなさい、もう大丈夫です。」
できるだけ、微笑む。
先輩は疑っている。
そりゃそうか…笑えてないし、顏はぐちゃぐちゃ。
その時、頼んでいたケーキとドリンクが運ばれてきた。
店員さんも私に気を取られているみたいだけど、関係ない。
先輩と縮めてしまった距離を離さなければ。
「とりあえず来たし…食べよっか!」
明るくふるまってくれる先輩。
「いただきます…」
ぼそっと呟き、フォークを手に取る。
顏をみないように。
ケーキだけを見る。
でも、頼まれたオレンジジュースを拒絶することはできない。
「ん、なにこれ。めっちゃおいしいんだけど!」
思わず見上げた先輩の瞳はキラキラしていて。
きゅん。と胸が高鳴る。
いけないのに。
「へぇー、そっちのもおいしそう!
ねね、ちょっともらってもいい?」
「え?」
思わず聞き返す。
そ、それって…間接キス!?
かぁーっと顔が熱くなる。
だめだだめだ。
…あ。
そっか。お皿ごと渡すもんだよね、こういうのって。
自意識過剰な自分が恥ずかしい。
「いいですよ。どうぞ」
と、お皿を前に突き出す。
顏は見ない。好きになるから。
「えーうそ、ショートケーキのくせにおいしい。
俺、甘いのあんま好きじゃないんだけどね。」
「そうなんですか…」
好き、が増えてくのが分かる。
だって、それって私のためにこのお店選んだってことでしょ?
ずるすぎる、大嫌いなんだから。
なるべく素っ気なく接する。
「ね、俺のも食べてみてよ。もらってばっかじゃ悪いし、おいしいよー。」
「いや、自分のだけで十分ですから…」
お願いだから。
私の「好き」にならないで…
「固いこと言わないの!ほらほら。」
鼻にツン、とお酒の匂いを感じる。
顏をあげると、先輩がフォークをこちらに差し出していた。
「ね?」
私は先輩の笑顔が好きなんだ。
抗えきれなかった。
「じゃあ…」
小さく口を開くと先輩が口の中にケーキを押し込んできた。
顏が熱くなる。
「顏真っ赤だね、そんなにアルコール強くないのにー。」
ばーか。あんたが真っ赤にさせってんのに。
「これ…おいしいですね」
「だろだろ?だから遠慮するなっていったのにー。」
先輩の笑顔はほんとに…。
もう、好きから抜け出せないのかもしれない。
オレンジジュースを飲む。
甘くて、でもちょっぴり酸っぱかった。