一輪の花

「でさ…本題っていうか、今日わざわざ時間割いてもらった訳なんだけど…」
神妙な顔つき。
なんだろう。いい予感はしない。
「その、なんつーか…嫌なこととか、ある?」
ぐさっと、心に手を突っ込まれたようだ。
先輩には、知られたくない。
あんなみっともない姿。
汚らしくて、目も当てられないような。
口は開くものの、言葉が出ない。
「ごめん、探りを入れたいとかではないんだ。
なんていうか、よくつらそうな顏してるから…。
話したくないならいいよ。ただ俺、力になりたいんだ。」
先輩の瞳は本気だった。
この人に話していいのだろうか。
先輩との、心地よい距離。
触れそうで触れられない、遠くから見守るだけで十分だった。
なのに…。
「…両親を…亡くしたんです。
まだ忘れられなくて…それで…」
ゆっくりと口を開く。
しかし、出てきたのは少し違う言葉だった。
間違ってはいない。でも、これじゃない。
先輩は静かに話を聞いてくれている。
「すごく大好きだったんですけど…癌と交通事故で…」
不意に視界がぼやける。
まだ泣くのか。
もう十分ないただろうに…
それも、好きな人の前でなんか。
必死にこらえるが、頬を涙が伝うのはあっという間だった。
「ごめん、思い出したく無かったよね。」
そういうと、先輩はその大きな手で、その親指でぐいっと少し乱暴に私の涙を拭いた。
「ごめんな…もういいよ、少し落ち着いて。」
不覚にも鼓動が高鳴る。
涙はさらさらと流れていく。
テーブルの水たまりが増えていく。
わしゃわしゃ、と先輩が私の頭を撫でる。
「…ばか」
思わず呟く。こんなの反則だ。
「え?ごめん、きこえなかった。」
私は黙って首を振る。
ずるいずるいずるい。
涙は止まってきた。
鼓動は止まらない。
それどころか、加速していく。
こんなにやさしくされると、思わず話したくなってしまう。