一輪の花

そんなある日のことだった。
「ねえ、今日バイト終わった後、時間ある?」
突然だった。
もちろん断る理由もないし、むしろうれしい。
「はい。どうかしましたか?」
「いや、まぁ…それは後でね」
優しく微笑まれると、断れない。
不思議に思いながらも、仕事に戻る彼を目で追うことしかできなかった。

いつもより早く仕事を切り上げ、先輩と帰りの支度をする。
「じゃあ、いこっか。」
歩き出す二人。
(なんだか、デートしてるみたいだな…)
先輩は全く意識していないみたいだけど、私は浮かれ気分。
すると、
「なんかさ、周りから見るとカップルみたいじゃない?」
ドキッと鼓動が跳ねる。
「そ、そうですかね…あはは」
絶対ごまかせてないよな…
それに。
両親を亡くしてからまだ長らく経っていない。
私だけ幸せになってもいいのだろうか。
いつもそんなことを思う。
いじめに耐えるのも、そのことと比べたらたやすい。
そんなこんなで、私たちはあるカフェについた。

「Riche」

読み方はリッシュ。
今、女子高生の間で人気の、フランス菓子のおいしいお店だ。
もちろん、こんな所に来る友達はいない。
外から除くと、パステル調の可愛らしい雰囲気だ。
「あの…先輩はよくここに来るんですか?その…」
どう考えても男子は入りにくい。
「はは、初めてだよ。こういうとこ好き。かなって。嫌だったかな?」
心配そうな、明るい茶色の眼が覗き込む。
「いや、とんでもないです!ここ…ずっと来てみたかったので。」
頭をぶんぶん振りながら弁解する。
来てみたかった…嘘じゃないんだろう。
「そっか、安心した。それじゃ入ろう。」
ニッと人懐っこく笑う彼に、鼓動は収まらなかった。